僕は仕事ができない

熊本でWebディレクターをしています。文芸、演劇、カメラ、インターネットが好きです。

転回者プロデュースvol.15『ジョン王』を観て

2017年の終わりに、熊本は水前寺のstudio in.K.にて、ミュージカル『ジョン王』を観劇した。僕もこのスタジオの機関紙「転回」の制作を行なったり、写真や動画の撮影をしているのだけど、観客として観たのはそういえば久しぶりだ。今回より導入されたチケットシステムPeatixにややどぎまぎしながら、無事に入場することができた。

 

今回上演された『ジョン王』は、ウィリアム・シェイクスピアの同名戯曲を鴦山史歩がミュージカル用にリライトし、亀井純太郎が演出をしたもの。in.K.のお芝居として、シェイクスピア原作でこの作・演出の作品は『十二夜』以来。

 

『ジョン王』は、実在したプランタジネット朝イングランドの王・ジョンを題材にした史劇だ。僕は原作の戯曲も上演も観ていないのですが、このミュージカル『ジョン王』を観るだけでも、だいたいの話の流れはわかるようになっている。

 

以下、観劇の感想をネタバレも含みながら書いていこうと思う。物語の筋がわかったからといって面白みが減じるわけではなく、むしろわかっていた方が面白くなる作品だと思うのなのだが、気になる方は注意していただければと思う。


この『ジョン王』という作品の中で、非常に不思議な立ち位置の役が「語り」だろう。十二月の公演では松田菜々が演じていた。土地や騎士道を重んじる『ジョン王』の登場人物たちに対して、お金などの資本主義的な価値観を持った未来人的な立ち位置で登場する。彼女は、物語の進行に転機を与える役回りであるが、登場人物たちにはその姿が見えたり見えなかったりする。僕はまだこの「語り」という役の立ち位置についてうまく整理ができていないんだけど、1月の上演も見る中でゆっくりと消化していきたいなあと思っている。

 

一方で、稽古を見ている段階では引っ搔き回し・トリックスター的な役回りなんだろうなあと思っていた枢機卿のパンダルフの出演機会が思ったよりも少なくて少し残念だった。トリックスター的な役回りは、どちらかというと「語り」が行なっていた印象。それはそれで別にいいのだが、個人的には藤野未波が演じるトリックスターが舞台を引っ掻きまわしていく様を見たかったので、その点がいささか残念ではある。


…などと、この調子で役者一人ひとりに触れていたらいつまで経っても終わらないので、そろそろ全体について書いておきたいと思う。

 

僕はin.K.のミュージカルを観るときに「多幸感」という言葉をよく使う。しかし、今回の『ジョン王』では、この「多幸感」というものが少し少なかったような気がする。しかし、それは決してネガティブな意味ではない。これまでのin.K.のミュージカル、たとえば『十二夜』や『やくもの冒険』は、決して壮大な物語ではなかった。『十二夜』はラブコメチックな喜劇だし、『やくもの冒険』は非常に素晴らしい作品ではあるものの、物語の筋としては童話的な部分がある。しかし、今回の『ジョン王』は史劇ということもあって、領土や王位の争い、それに伴う登場人物の死などの要素も入りこむことで、これまでの作品に比べてスペクタクルな印象を受けた。

 

もちろん、コメディチックな演出も健在ではあったが、それも「争い」に焦点を当てているものが多く、「多幸感」とは違った味わいを持っていたように思う。

お気に入りにのシーンを一つ挙げるとするならば、ジョンとフィリップ2世が対峙して、ジョンとアーサーのどちらが王に相応しいかの争いをするシーンだろうか。歌謡曲を思わせる曲調に乗ってお互いの意見を主張するのが大変心地よく、あそこだけ繰り返し見ていたいと思ったほどだ。もちろんこれは、ジョンとフィリップ2世を、僕の所属しているぽでぃっきゅのメンバーである瀬上・野島が演じているからという贔屓目もあるのだけど…。

 

とにかく、僕はin.K.以外でミュージカルを観たことがないのでこういうことを言っていいのかわからないんだけど、すべてを歌とダンスで埋めてしまうミュージカルというのは、エンタメとしてすごく強いと思う。ストレートプレイだと間合いがつまんなかったりすると一気に地獄なんだけど、ミュージカルはずっと歌っているのでずっと楽しい。これは素晴らしいことだと思う。

 

書いているうちにどんどんと偏差値が低くなっていくので、感想はこのあたりで。おそらく、まとまった感想はまた次号のstudio in.K.の機関紙「転回」にも書くと思うので、次回の公演にお越しいただければと思う。