戌井昭人『まずいスープ』を読んで
戌井昭人『まずいスープ』を読みました。
表題作の「まずいスープ」を含め、「どんぶり」「鮒のためいき」の三作品が掲載されています。
この中編集について僕の感想を述べていくのですが、あらすじがとても的確なので、まずは引用させていただきます。
表題作をはじめ、人生に潜む悲しさと愛おしさを、シュールな笑いとリアリズムで描いた3編を収録。気鋭が贈る人間讃歌。
(あらすじより引用)
過不足なくて、とても良いあらすじだなあと思いました。「シュールな笑いとリアリズム」なんか特に。
まあ、最近の純文学は、シュールな笑いとリアリズムを含んだものがたくさんあるような気もしているのですが、そんなことを自慢げに語れるほど純文学に明るくないので、ここはひとまずこの解説を「的確」としておこうかと思います。
以下、作品毎に感想を書いていきます。
「まずいスープ」
そもそもこの作品が第141回芥川賞候補作だから、ということでこの本を買ったという風に記憶しています。1年くらい本棚で眠っていました。
「この話、まともな人間が一人も出てこないな」と読んでいる間中思っていて、何やってるか分からない父親と、バイトと旅行を繰り返している息子という組み合わせが、ちゃらんぽらん感が出てて愛おしくなってきます。ほんと、全員がちゃらんぽらん。
ダメ人間を愛でる為の作品。だから解説に「人間讃歌」って書いてあるのか。
「どんぶり」
ネタバラしてしまうと(ネタバラしても、作品の価値は損なわれないと思うんですけど)、主人公は競輪でめちゃくちゃ勝ちます。で、勝ったからお金もあるし、という理由で派遣の仕事に行かないんですけど、「いや、行けよ」と思いました。
どこが一番印象に残っているかというと、そこですかね。
その後でもちろん派遣会社から電話がかかってくるんですけど、面倒くさがって出ないんですよね。「ほらー、だから出れば良かったじゃん!」と読みながら思う僕。絶対、またかかってきますよね。
あと、ハエ視点からも物語を書いているのも面白かったです。ああいうのをシュールって言うんだろうなあ。
随所に登場するこの「ハエ」ですが、まあこの作品で考察をするとしたらここでしょう。ぼんやりと「生と性の象徴かなあ」と思ったことだけ記しておきます。今度また考えます。
「鮒のためいき」
僕は基本的に女性視点の話の方が好きなので、三作品の中でこれが一番好きかもしれません。デビュー作なんだそうです。
デビュー作だからか、他の二作品に比べるとちょっと力入ってるのかなあと思ったり。
解説でえのきどいちろうさんが、戌井昭人の小説は力んでるところが全然ないって書いていたんですけど、いやこの作品は結構力んでいるだろう、と。
特に鮒の入ったバケツを置いていくシーンなんかは、奇をてらおうとしてバリバリ力入っている(というと、ファンの方に怒られそうですが)。
でもまあ、力が入っているからといって悪いというわけではなくて、それはそれなりに楽しめるものです。なんせ、三作品の中で一番好きですからね。
まとめ
好き勝手に書いていたら、何とも適当な感じの書評になってしまいました。
ここまで来て、そうか文庫本の解説みたいなものを書けば良いのかと気づきました。今度何かの本についてブログを書くときは、挑戦してみようと思います!