あとーすログ

文芸、演劇、カメラ、インターネットが好きです。

長編脳でも分かる140字小説の書き方のコツ4つ

f:id:ATOHS:20160125115126p:plain

 

 

昨年から200個くらいの140字小説を作ってきました。そこで今回は、僕自身の備忘録も兼ねまして、140字小説を書くときに気をつけていることを書き留めたいと思います。

正直な話、140字小説を書くのにテクニックも何もいらないので、超細かいことをつらつら並べていきたいと思います。また、140字で書けばなんでも140字小説になってしまうと思うので、「あとーすさんみたいな140字小説を書きたい!」ということであればこの記事は有用かなと思います。僕の140字小説が嫌いな人は、ほしお先生の140字小説を読んでほしお先生の140字小説講座にいきましょう。

 

ちなみに僕は、いつも「篠原歩」という筆名で140字小説を投稿しています。

ほしおさなえ先生の素敵な140字小説も、一編貼らせていただきます。

 

一気に70字くらい考える

いきなり細かい点で申し訳ないのですが、たくさん140字小説を作ってきて、これが一番重要だなと思ったので、書かせていただきます。

僕は140字小説を書くとき、だいたい最初の70字くらいまでを一気に考えます。だいたい二文か三文くらいになるでしょうか。普通の小説でいうところの「起」あるいは「承」までをここで完成させなければなりません。まあ140字小説には起承転結なんて無くていいと思っているので、別に「起」とか「承」とかを意識する必要はないのですが、最初の70字くらいが作品の導入になると考えてください。

普通の小説で考えると作品の半分が導入というのは長いような気もしますが、僕の経験からすると、最初の70字くらいは何も考えずにさらっと読むことができます。ただ、その後ろの70字は、前半の70字が好きではないと読み飛ばしてしまうことも多いです。つまり、最初の70字でいかに惹きつけるのかが大事になってくるわけですね。

最初の70字さえ書いてしまえば、そこで世界観はある程度できあがっているはずなので、あとはある程度惰性で書けてしまうのではないかと思います。そういう風に肉付けをしていくと最初は140字を大幅に超えてしまうこともあるかと思いますが、言葉を削って、その140字小説で伝えたい芯の部分を明確にしていきましょう。

 

紙に言葉を書きつける

140字小説は、多くの人がTwitterで発表すると思います。なので、初めからPCやスマホで文字を打ち込み始める人も多いことでしょう。もちろん僕も、初めからPCやスマホで140字小説を打ち込み始めることもあります。しかし、おすすめはまず紙に言葉を書きつける方法です。

僕が初めからPCやスマホで書く場合というのは、すでに最初の70文字がある程度出来上がっている状態であることが多いです。紙に書きつけるのは、「数日作ってないし、そろそろ作らなくちゃなー」と思っているときです。最初の70字って出てくるときはぽんぽんと出てくるくせに、出ないときは全く出ないんですよね。だから、最初に紙に書くときは非常に難産である場合が多いです。一個の140字小説を完成させるのに(というか、最初の70字を搾り出すのに)1時間くらいかかったりします。

さて、紙に何を書きつけるのかというと、何でもいいです。頭を空っぽにして最初に思いついた言葉を書くこともあれば、僕は曲を聴きながら考えることが多いので、ふと耳に入ってきて「いいな」と思った歌詞を書きつけることもあります。文字が全然出てこない場合は、下手くそな絵を描くこともあります。

まあ絵を書いたところで全然140字小説の完成には近づかないと思うのですが、そこに書きつけた言葉たちは140字小説の種になるはずです。また、そこに書いてある言葉をかき集めて70字の種を作ろうとすることもあります。これをPCやスマホでやってしまうと、出来損ないの70字を消してしまいますが、紙にボールペンで書けば、その出来損ないの70字もずっと残ります。その70字をきっかけに新たな70字が生まれることもあるかもしれませんし、少し経って読み返したときに、新たな70字の種になることがあるかもしれません。だから、もったいない精神でこれらの言葉を大事に紙に書いてとっておくのです。

ちなみに、最近はZEQUENZという手帳(メモ帳?)を使っています。

 

atohs.hatenablog.com

 

文字数が増えることを恐れない

140字という制限がある中で逆説的なことを言うようですが、文字数が増えることを恐れてはいけません。

たとえば、「~けど」と「~けれど」という表現では前者の方が1字節約できるのですが、僕の場合は好んで後者を使う傾向にあります。ここに意味の違いは特にありませんが、やはり言葉の響きが全然違ってきます。

もちろん、言葉の並びから「~けど」を選択することもありますし、あと1字削除すれば140字ぴったりだというようなときには、やむなく「~けど」にするような場合もあります。しかし、作成している途中では文字数が増えていくことを恐る必要はありません。もし140字を超えてしまったら、そのときに削ればいいのです。

字数を節約しようとすると、どうしても漢語表現ばかりになってしまいます。140字という制約の中で、確かに表意文字である漢字は非常に便利なのですが、そればかりを使っていると非常に硬い文章になってしまいます。硬い文章でもいいという方はもちろんそれでいいのですが、むしろ大和言葉などを使ってひらがなを入れ込んだ方が、奥行が出る場合も多いです。

すごく大雑把に言うと、漢字を多用すると男性っぽい140字小説に、ひらがなを多用すると女性っぽい140字小説になります。僕はそもそも女性作家の書いた小説が好きという事情もあり、少し字数を増やしてでもひらがなを入れ込むことが多いです。

 

説明しすぎない

上と違うことを言うようで申し訳ないのですが、140字小説では表現を切り詰める必要があります。しかし、それはひらがな表現を漢字表現に変えるとかそういうことではなく、いかに表現の奥行を持たせられるかということにかかっていると僕は考えます。

たとえば、主人公やその場所の説明を僕はほとんどしません。140字小説では、登場人物も舞台になる土地も匿名にならざるを得ないでしょう。もちろん、そこに何かしらの名前を付けることも可能ですが、140字という狭い空間の中では、名前を充分に生かしきれないでしょう。小説で名前を付けるとき、長い物語の中でその名前のついた人物なり土地なりに様々な情報が結びついていくのですが、140字小説は何せ140字で終わってしまうのです。名前にたくさんの情報をこめるのは無理です。説明の途中で140字小説が終わってしまいます。

というわけで、140字小説では登場人物や舞台は匿名で、その人物像や土地のイメージを読み手に託す必要があるわけです。140字小説を読んで各々が自己の記憶を呼び起こし、その記憶から140字小説の匿名の部分を埋めていく。きっと、そういう読みを要請する必要があるのではないかと思います。

また、140字小説では比喩表現が大事になってくるでしょう。例を出しましょう。昨日、ちょうど無間書房に投稿した140字小説がこちらになります。

恐らくこの140字小説を読んで一番目につくのは「君の声と瞳は世界で一番熱い命を宿している」なのではないかと思っています。決してかわいくはない「君」から「僕」が目をそむけられない理由を、この一文にこめたつもりです。

この140字小説が好きか否かというのは、この「君の声と瞳は世界で一番熱い命を宿している」という表現のリアリティを感じられるか否かにあると思います。「寒い表現だなあ」と思った人とは恐らく僕は全くリアリティが共有できないし、少しでも「いいな」と思ってくれた人には、僕のリアリティの何割かが伝わったのかなと思います。

「君」の魅力を詳細に記述することは、たとえば140字という制限を外してしまえばできるでしょう。ここでは140字で表現することの必然性には触れませんが、ひとまず140字で表現しなければならないとなったときに、圧縮された表現を用いる必要があります。あとは、読んでくれる人がこの圧縮された表現をどう解凍するかという問題です。この140字小説は「アイドル」というお題で書きました。もしも僕と同じ「君」を想像しているのであれば、僕が圧縮するのとほぼ同じ状態に解凍できる人もいるかもしれません。でも、ほとんど僕と同じ「君」を想像した人はいないと思うので、オリジナルとは違う形で解凍してしまう方がほとんどだと思います。けれど、140字という表現の中で圧縮したものが適切に解凍されるわけもないので、勇気を振り絞って、できるだけ濃度の濃い圧縮を心がける必要があるのだと思います。まあここでは、「命」という言葉に意味を詰め込みすぎているような気がしなくもないですが…。

 

まとめ

以上、僕が普段140字小説を書くときに気をつけていることを4つ紹介させていただきました。本当はもっと色々考えていることがあるのですが、またの機会にということで。

とりあえず、70字くらいの文字の塊を作ればあとはすらすらと書くことができると思います。ちゃんとした作品を出すことも重要ですが、140字小説は字数が短い分、実験もしやすいと思いますので、まずは色々と書いてTwitterに投稿して反応を見てみるのがおすすめです。その中で、あなたのスタイルが見つかることでしょう。

僕が140字小説を書いているTwitterアカウントもよろしくお願いいたします!

篠原 歩 (@shino140nov) | Twitter

無間書房 (@mugenshobo) | Twitter