芥川賞候補作品と掲載雑誌の関係を調べてみた
ご存知の方も多いと思いますが、芥川賞は文藝春秋社が主催する文学賞です。
故に、文藝春秋社が発刊している『文學界』に掲載された作品が候補に上がったり受賞したりすることが多いです。
また、芥川賞が創設された当初は様々な雑誌の作品が芥川賞候補になっていますが、最近ではいわゆる五大文芸誌*1以外の作品が候補になることはほとんど無くなってしまいました。
ここでふと、各年代毎の芥川賞候補作と掲載雑誌の関係を知りたくなりました。
いつものように調べてみましたので、その調査結果について書いていきたいと思います。どうぞお付き合いください。
雑誌毎の候補回数ランキング
芥川賞候補作品のうち、雑誌に掲載されていたものは1064作品でした。今回の調査では、雑誌掲載作品でないものは集計から除外しています。また、複数作品で候補になった方もいるので、延べ受賞人数とここでの作品数が一致しないことにご注意ください。
それから、手入力しているので単純にミスがあるかもしれません。間違いに気づいた方は、教えていただけると幸いです。
また、入力作業がとても面倒だったので、「學」は「学」に、「藝」は「芸」に統一しております。
さて、雑誌毎の候補回数のパーセンテージを表したグラフが以下のものになります。
五大文芸誌がトップを独占!さすが『文學界』は強いですね…。
『新潮』、『群像』、『文芸』、『すばる』という流れも予想通りなのではないでしょうか。すばるは1970年創刊なので、大健闘でしょう。
ちなみに、五大文芸誌の作品数は
『文學界』:340
『新潮』:141
『群像』:105
『文藝』:76
『すばる』:40
となりました。
『海燕』が36作品(3.8%)、『三田文学』が21作品(2.0%)と続きます。
ちなみに、受賞作に絞るとこんな感じになります。
順位は変わりませんが、『文學界』と『新潮』の割合がやや多いですね。
作品数は以下のとおりです。
『文学界』:56
『新潮』:25
『群像』:20
『文藝』:10
『すばる』:3
年代毎に変化を追う
1930年代~2010年代まで、時代毎の変化を追っていきましょう。
グラフをぺたぺた貼っていきます。大きさが若干違いますが、許してください。
1930年代
芥川賞は1935年上半期から始まりました。
最初から、五大文芸誌の『文學界』と『文藝』がランクインしていますね。
ちなみに、『群像』は1946年創刊、『すばる』は1970年に創刊なので、この時点ではまだ誕生していません。
5位にランクインしている『早稲田文学』は休刊と繰り返し、現在は第10次『早稲田文学』が発刊されています。近年では、最年長での芥川賞受賞となった黒田夏子氏の「abさんご」が、『早稲田文学』に掲載されていました。
1940年代
戦争の影響か、1945~48年までは芥川賞の選考が行われませんでした。
6位以下の割合が増えましたが、『文學界』はトップを守っています。
また、『文芸首都』が同率1位。詳しく解説してあるページがネット上になかったので、コトバンクのリンクを貼っておきます…。
1950年代
五大文芸誌の『文學界』『新潮』『群像』がトップ3に。4位には『文学者』、5位には『三田文学』と、1940年代からの流れを感じるものとなっています。
『群像』は1946年創刊でこの位置。1940年代に『文學界』と同率1位だった『文芸首都』は、一気にランキング圏外となってしまいました。
1960年代
この時点でまだ創刊されていない『すばる』を除く五大文芸誌が4位までを独占し、現在の状況とかなり近いものになっています。
ちなみに、ここまでも上位にいて今回も5位につけている『文學者』は、室生犀星や伊藤整などを擁した文芸同人誌です。1967年頃まで発刊されていたようで、ここで姿を消します。
1970年代
5位以下が14.4%と、一気にその割合を縮めました。この辺りから、文芸同人誌の盛り上がりがなくなったのでしょうか?(勉強不足ですみません)。
『文學界』が全体の3分の1を超え、存在感を示しています。
1980年代
『すばる』を除いた五代文芸誌に混じって、『海燕』がランクイン。この雑誌は1982年から1996年まで発行されていました。吉本ばなな氏、小川洋子氏、島田雅彦氏などがこの雑誌で育ちました。
生まれる前のことなので、この雑誌がどれほどの勢いなのか分からないのですが、文庫本の著者説明などで「海燕新人文学賞を受賞しデビュー」というのをよく目にしますね。
1990年代
『文学界』がいよいよ50%に迫っています。『文芸』がランキング圏外にいき代わりに『すばる』が初ランクイン。96年に廃刊となる『海燕』も、4位につけています。
2000年代
2000年代は、五代文芸誌以外の作品が1作品となりました。ちなみにその1作品は、『早稲田文学』に掲載された川上未映子氏の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」です。第137回(2007年上半期)のことでした。
川上未映子氏は、次の第138回、『文學界』に掲載された「乳と卵」で芥川賞を受賞しています。
2010年代
記事執筆時点で最新の第153界回(2015年上半期)までの集計結果です。
2000年代の変わらず、五代文芸誌が独占する結果となりました。しかし、『新潮』が大躍進を果たし、現在は『文學界』と1位を争っています。
ちなみに、五代文芸誌に掲載されていない候補作品は2作品です。2010年代は、まだ五代文芸誌以外からの候補があるでしょうか?
おまけ
あとのグラフはおまけ程度のものです。
まず、各年代毎のトップ5が占める割合の推移を示したもの
1970年代に大きく跳ね上がり、1980~90年代の『海燕』黄金時代を経て、2000~10年代の五代文芸誌時代へと突入しています。
2つめは、全体に占める五大文芸誌それぞれの割合です。
とにかく『文學界』が最強であることが分かるグラフですね。
まとめ
以上、ババっと調査結果をまとめてみました。
「もっとこんなグラフが欲しい!」という要望があれば、コメントしていただけると嬉しいです。追加させていただきます。
余談ですが、文芸誌の新人賞には「同人誌に掲載したものも応募禁止」になっているものが多いですよね。あれって、力のあった文芸同人誌がたくさんあった1970年代くらいまでの名残なんだと思います。
文学フリマ事務局さんも、この規定撤回の署名を集めていましたね。Change.org で署名を集めているようですが、目標が5000人に対してまだ署名が210人…!
僕もまだ署名をしていなかったのですが、賛成の立場なので、これを機会に先ほど署名をしてきました。
まだ署名をしていない方で、賛同できるという方は、署名していただけると文芸を志す人々が幸せになるのではないかと思います。
グラフの画像の大きさが揃ってなくて本当に申し訳ないです!時間を見つけて修正します!!
とりあえず、今回はこの辺で~。
※関連記事
*1:文學界、新潮、群像、文藝、すばる